いやはや驚いた。タイトルを見て一瞬「消費増税反対論」の間違いじゃないかと思われても無理はない。コロナ禍の真っただ中にある我が国はGDPの1割以上を喪おうとしている。サービス業を皮切りに「コロナ・ショック」の影響は産業全体に及び始めており、実質賃金や雇用についても7月以降シャレにならない数字が出てくるはずだ。そんな中、東京財団政策研究所が発表した「緊急共同論考」にわが目を疑った。「消費減税は望ましくない」と主張しているのだ。
間違いだらけの「消費減税反対論」
問題の「論考」は東京財団のホームページに今でも掲載されている。
新型コロナウイルスが世界経済やわが国経済に与える被害は、未曽有のものになりつつある。これに対し各国とも、財政・金融政策を総動員して対応している。他方、非常時を理由に財政規律の弛緩を容認する動きがあることは懸念される。消費税減税の要求もその一つだ。しかし、消費税は社会保障の財源であり、仮に減税となれば悪影響が及ぶ。高齢化が進むわが国において将来に禍根を残しかねない。(後略)
冒頭から突っ込みどころなので、やや面倒ではあるが指摘しておく。
「消費税は社会保障の財源であり」・・・
事実に反する。消費増税とほぼ比例する形で法人税減税が進められており、実際にはぼうだいな企業の内部留保を生み、海外投資家や経営者への配当金に消えている。また、2014年の5%→8%増税時に「増税分はすべて社会保障の充実に使う」というチラシまで作成していたが、増税分の約6割が国債の償還(いわゆる「国の借金の返済」)に使われた。
「「いまは財政再建を考える時期ではない」という向きもあるが、非常時を口実に財政再建を放棄して良いわけではない。」
・・・そもそも「財政再建」とはなにか。彼らが主張する「プライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化」のことなのだとしたら、反対側で海外収支(経常収支)か民間収支が赤字にならないといけない。日本はドイツのように貿易収支への依存が高くない典型的な「内需国」なので、政府の財政を黒字化させるということは、国民に赤字=貧困化を強いることになる。実体経済の基本を理解していない(または理解していないふりをする)からこんな本末転倒な議論になる。そしてトドメは「消費減税は高所得世帯ほど恩恵にあずかる」というトンデモ議論だ。
きわめつけ!消費減税は「高所得者の利益のほうが大きい」というレトリック
まずは、土居丈朗・慶応義塾大学教授謹製の下図をごらんいただきたい。
土居先生の主張はこうだ。消費税を仮に現行の10%から5%に減税した場合、低所得世帯より高所得世帯のほうが減税の影響額が大きくなる。
200万円の世帯の減税額 年間4.7万円
1500万円以上の世帯の減税額 年間23.6万円
これで「ははぁなるほど、確かに高額所得者のが得してるわなー」と思ったあなたは、すでに東京財団(土居先生)の罠に引っかかっている。減税額ではなく消費税の負担後に残る所得の割合でみれば、以下のようになるからだ。
200万円未満の世帯 95。0%→97.4%(+2.4%)
1500万円以上の世帯 96.7%→98.2% (+1.5%)
そりゃ当たり前でしょう。低所得世帯のほうが所得の大部分を消費に使わざるを得ず、逆に高所得世帯は所得に占める消費の割合は低くなる。エンゲル係数と同じことで消費性向が異なるからだ。だから消費減税を行えば、とうぜん低所得世帯ほどその恩恵にあずかることになる。逆に高所得世帯は所得が増えるほど所費が占める割合は減っていき、したがって減税の影響も小さくなる。土居センセーはわざと「金額」で比較することでこの消費性向の違いによる減税の影響を「見えなく」しているのだ。
これが財政再建至上主義者(財政緊縮論者)の正体だ
ついでながら、土居センセーはご丁寧にも今回支給された一人当たり10万円の特別定額給付金の世帯当たり受給額をも試算して、「ほれ見ろ、消費税5%減税くらいの影響は出ているだろうが」と宣う。
あのな、定額給付金は一回きりだろ。消費税はこの国に生き続けるかぎり毎年、毎月、毎日むしられるんだけど。
それに、金額による影響うんぬんするなら最適な税制が人頭税になってしまうではないか。こんな人間(たち)が大学教授だ、政策研究だと政権の中枢に食い込んで、財務省の忠実なる番犬として吠える(このペーパーには関わっていないようだが、同じ東京財団の小林慶一郎氏は今回政府のコロナの経済対策諮問委員となった)。小林氏も名うての緊縮論者であり、今回の委員就任にあたってのインタビューの中で、今回の経済対策に費やした費用については「消費税減税は望ましくない」と述べるとともに将来的には国民全体が負担すべきもの、としている。それって東日本大震災のときの復興増税と同じ「コロナ増税」だよね!?
消費税は諸悪の根源
今般ようやく日本の経済危機が叫ばれるようになったが、そもそも昨年10月の消費増税によりこの国のGDPは年率で7.1%も失われていたのだ(対前期比)。そのことが判明した2月の時点ですら安倍首相も黒田日銀総裁も「景気は緩やかに回復している」などと寝ぼけた発言をし、与党議員は口をそろえて「10-12月期の落ち込みは台風のせい」と繰り返していたのだ。台風も水害もここ数年毎年襲ってきているだろうが。
断言する。消費税は消費に対する罰金であり、日本のデフレ化政策の一丁目一番地、諸悪の根源なのだ。消費税を廃止(軽減税率未来永劫マイナス10%でもよい)し、企業・フリーランスを問わず失われた粗利を補償し、継続的な定額給付金等で国民すべてを救わないと、この国の生産や供給の体制は根本から破壊されてしまう。「V字回復」どころか「L字」転落を繰り返して先人たちが気付いてきた国富も失われる。いま「消費減税反対」をさけぶ連中は、そんな当たり前のことも理解できない、学者を名乗ることも許されない低レベルな知的生命体なのだ。だまされてはいけない。
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